宝珍楼 〜商店街のヴォイド〜

作品情報
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宝珍楼 川崎市中原区
  • 設計担当:納谷学、出原賢一
    構造設計:かい構造設計 寺門規男
    施工会社:栄港建設

  • 構造形式:鉄骨造

    竣工年月:2001年4月

  • 敷地面積:99.18m²(29.95坪)

    延床面積 : 163.82m²(49.56坪)
    1階面積 : 85.98m²(26.00坪)
    2階面積 : 68.39m²(20.68坪)
    3階面積 : 9.45m²(2.86坪)

  • 受賞歴:2001年度 グッドデザイン賞
        2001年 ar+d賞 入賞
        2002年 JCDデザイン賞入賞
        2003年 日本建築士会連合会奨励賞

    掲載誌:『次世代の空間デザイン 21名の仕事』
        『建築MAP 横浜・鎌倉編』
        『新建築01年6月号』
        『日経アーキテクチャア 01年5月14日号』
        『ディテール2002 夏季号』
        『AERA DESIGN ニッポンのデザイナー100人』

宝珍楼 川崎市中原区

東急東横線・新丸子駅東口。東口駅前商店街の一角に、先代から引継いだ中華料理店があります。建物の老朽化に伴い、常連客でもある我々が建て替えのチャンスをいただきました。敷地は素直な長方形、内部空間をすこしでも広く確保するため、外壁を隣地境界いっぱいに建て、可能なかぎり外壁を薄くすることを目指しました。

建築本体は、2m巾を基準に分割、ユニット化 (壁パネル16ピース、床パネル15ピース)して、敷地奥より門型に組立てながら、前面道路に向かってトンネル状に連続させました。隣地境界と外壁の最小離隔距離は、70mmです。建物を隣地境界いっぱいに計画するあたって外壁のメンテナンスを考慮し、メンテナンスフリーのコールテン鋼を使っています。スレンダーなH鋼のフレームの中に、間口いっぱいの吹抜けを計画しました。吹抜けは、1階エントランス周りで7.65m、2階レベルでは4.85mの連続した空間としています。吹抜けは、そのまま3階へとつながり、敷地奥の隣戸の外壁まで到達しています。

細くて頼り無い外観のフレームとは裏腹に、ダイナミックな空間を内包させ、薄い筒状の建物であることが、道路を歩く人からも良く見えます。敷地の形状、施主の要望、素直に組立ててきたつもりでしたが、汎用性の高い、通常とはすこし違う建築が商店街の一角に出現しました。すこしだけ違うことの連続で辿り着いた建築は、きわめてシンプルで薄いフレームの連続で成立していますが、建築主体より都市のヴォイドの様にも見えます。

全国どこにでもありそうな何の変哲もない商店街の中で、街並をえぐり取ったような、あるいはポッカリと穴を明けたような在り方とすこしだけ違う構造形式 が、建築が箱としてではなく、その薄さゆえ、もはや建築自身の輪郭を消し去ろうとしています。

そして、中華を食するお客さんだけが商店街に浮かび上がってくるのです。

構造形式の選択

店主からの依頼は、「厨房が狭くて使いにくい。とにかく広くしてほしい。」とのことでした。

かつての宝珍楼は木造2階建て、軒が出て厨房のダクトや設備の配管、空調室外機、雨樋等が隣地境界いっぱいに迫っていて、内部空間は押しやられていました。店主の要望に加え、敷地がほぼ長方形に近いこと、当然店鋪という性格上、工期短縮が望まれました。

そこで、まず第一にどれだけ外壁を薄くできるか、その為には柱が何本になっても構わないと構造家の寺門氏に持ちかけたところ、100角のH型鋼なら場所にもよりますが約400~500ピッチで可能とのことでした。ただし水平・垂直ブレースがほしいということでした。

第二に、ブレースはスチールプレートを柱や梁の片側に貼ることで解決できないかの問いに、溶接の仕方で可能とのことでした。これでブレースとしての外壁と床板が出来上がりました。

第三に組立て。これらのムカデの足のような柱と梁の精度と施工性を考えた時、寺門氏から出来るだけ工場での加工を多くしたいとのことでしたので、運搬できる最大限の大きさのユニットにして組み立てることが提案されました。

これは、敷地いっぱいに建て込める可能性と工期短縮という店主へのプレゼントをも含み、 おぼろげながらも宝珍楼の骨格が60分の打ち合わせの中で決定しました。

構造家・かい構造設計 寺門規男氏のコメント

この建物を形作る架構の考え方について、施工計画を含めて説明する。

まず、架構計画として梁間方向は、フレームを細かく面材的(40~50cm間隔)に配置し、力を分散 することにより、スパン5.5mを10cmの成の梁及び柱部材で構成することを可能としている。また、 フレームの間隔を変える(40~50cm間隔)ことで、平面的なかたさのバランスをとっている。 一方、桁行方向は、短スパンフレームと外壁仕上げ鋼板(t=3.2mm)のブレース効果により、剛性等 の確保をしている。そして、水平剛性は、床仕上げ等を兼ねた鋼板(t=2.3~3.2mm)のブレース効 果によって確保されている。

この様に、鋼板を仕上げと構造に共用することで、より効率の良いスレ ンダーな架構となっているといえる。 また、施工計画上、この建物の敷地形状が1面道路、3面隣地(両隣が店鋪)ということもあって、 短期間(2日程度)で境界いっぱいに建方を行う必要があった。

そこで、工場では、複数フレームを 一体にした上、鋼板(外壁、床、屋根用)を柱、梁に取り付け、ユニット化(巾2m×高さ8m程 度)できるように検討、計画した。その結果、敷地境界部分での作業をなくすこともでき、短期間で 建方を完了することができた。

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